以下のハフポストの記事を引用しながら、西成高校と西成という土地について少し考えてみたい。
西成高校について
番組内では、西成高校について「窓がガラス素材でない理由は、ガラスだと割る人が多いから」「椅子が机と繫がっている理由は投げられないようにするため」(西成高校中退の芸人)などの発言があったという。
ハフポストの取材によると、西成高校の山田勝治校長はこれらの発言は事実に反するとし、そのうえで以下のように訴える。
同校の生徒たちは日常的に差別を受けているのだと明かした。例えば、卒業生が働くアルバイト先で学校名を聞かれた際に、「西成です」と答えただけで、「きちんと働かないのでは」といった偏見を持たれたり、ひどい言葉をかけられたりすることがあり、こうした偏見はなかなか減らないという。日雇い労働者が多いことや、かつて被差別部落があったという歴史。確かに「西成には、地区として複合的な要素がある」と、山田校長。
当然のことながら、西成高校には西成区外からの入学者も多い。「西成高校が差別される理由」と「西成区が差別される理由」をそのままリンクさせ話を進めようとするのは、少々乱暴ではある。
同じ西成区内には今宮工科高校という高校もある。あいりん地区に近いことから、「今宮」は人によっては「西成」以上に偏見の対象になりうる地名だが、今宮工科は大阪府内の工科系の中で都島工業に次ぐ評価を受けている。
今宮工科の近くにある今宮高校(浪速区)などは、学科の改編や校則などの活発な議論によって、一時期はお隣の名門・住吉高校(阿倍野区)以上の人気校になったこともあると聞く。西成高校にも、イメージを変えるチャンスはこれからいくらでもやってくるのではないだろうか。
今回もそのチャンスの一つだったとは思うのだが、校長自身が高校や区に対する差別を声高に叫ぶことによって、そのチャンスを潰してしまったような気がするのは何とも残念なことである。
西成区について
何よりも西成という土地は、世間が思っているほど危険で治安の悪い所でもない。そして、よく「西成」と一括りにはされるものの、当然のことながら、西成区内にもいろいろな特色を持った地域がある。
番組を少し確認したところ、「大阪の人はわかるけど、西成は僕らも学生の頃に、あっち方面は行かんとこって皆で言うてました」(宮迫博之)といった発言も見られた。
そこで、上で引用した記事の一部をもう一度引用してみたい。
日雇い労働者が多いことや、かつて被差別部落があったという歴史。確かに「西成には、地区として複合的な要素がある」と、山田校長。
日雇い労働者が集うあいりん地区は通称・釜ヶ崎とも呼ばれ、その地区は区北東部に位置するほんのわずかなエリアにすぎない。
その釜ヶ崎も、昔々ならいざ知らず、最近では若者や観光客が平気で闊歩する、世界的にはとても平和なエリアとなっている。道頓堀界隈(中央区)や歌舞伎町(東京都新宿区)のほうがよっぽど危険なくらいだろう。
ハフポストの記事には、実際に現地で支援を行っているNPO法人理事の言葉も掲載されている。
確かに不法投棄が問題になっていたりする地区ではありますが、長年この地区と向き合っている立場からすれば、実際にそこまで治安が悪いとか、そういう印象はありません。実際に私も地区を夜に巡回していますが、怖い目にあったこともないですし。
かつて被差別部落があったという地域も、今では同化が進み、その特徴は急激に薄れつつあると聞く。
その地域内や近辺には、大型ホームセンターや人気チェーン店などロードサイド店舗が立ち並び、区外からの利用者も多い。特別治安が悪くトラブルなどが多い地域というわけではないから、企業側もそこに店を置くのだろう。
そして、南部の大部分は平均的な住宅地で、お隣の阿倍野区や住吉区と空気や景色がそれほど変わるというわけでもない。
結論
以上のように、西成区の中にもいろいろな地域があり、その中でも特別治安が悪く、危険なエリアとされてきたあいりん地区でさえも、今では世界的に見ればとても平和な場所となっている。そして、その西成区と西成高校に対する差別をそのままリンクさせて語ろうとする西成高校校長の姿勢は、区と高校のイメージを更に悪くするだけである。