『私物化される国家』に見る中野晃一・上智大学教授の職業倫理

政治
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政治学者による最近の安倍内閣の分析・評価を知りたくて、中野晃一『私物化される国家』(2018年、角川新書)を読み始めた。ところが、どうも引っかかる。それもまえがきや序章という早い段階で。

そのまえがきには次のようにある。

日本においても2012年12月に政権復帰した安倍晋三の下、森友・加計学園疑惑や昭恵夫人による著しい公私混同はもちろんのこと、ジャーナリスト伊藤詩織さんの訴える準強姦容疑において、首相に近い山口敬之元TBS記者に逮捕状が出ていたにもかかわらず直前に逮捕取りやめになった事件などが明らかになり、安倍とその取り巻きによって「私物化される国家」の姿が浮かび上がってきた。

森友・加計学園疑惑や昭恵夫人による著しい公私混同、山口敬之の逮捕取り止め事件(?)によって、本書のタイトルにもなっている「私物化される国家」が顕在化したという。モリカケ問題や昭恵夫人による公私混同はさておき、山口敬之の逮捕取り止めが「私物化される国家」にどう繋がる?と疑問を持った読者は少なくないだろう。

ところが、である。

本書が試みるのは、このように私物化された国家の実態を暴くことではなく、なぜどのようにして国家が私物化されるようになったのか、このことの意味は何か、またいかにしてこれに抗うことができるかについて、グローバルなコンテクストのなかで、とりわけ現代日本政治に焦点を置いて筆者なりの論考を提示することである。

「山口敬之逮捕取り止め事件」と「私物化される国家」の因果関係、そこは暴かず(証明せず)して、「私物化される国家」の背景にある歴史的経緯や政治哲学的意味について、もっと大きな視点から自分なりの考えを提示していくという。司法に対する国家の介入というかなりデリケートな部分に首を突っ込んでおきながら、頭でっかちな能書きを垂れて大きく引いてみせる。それではとても格好がつかない。

そもそも山口敬之とは何者なのか?2016年に出版した『総理』(幻冬舎)がそれなりの評判になり、2017年春の籠池騒動の頃からテレビでよく見かけるようになった。と思ったら、同年5月に上記の準強姦容疑を公にされ、ぱたっと消えた。突然現れて、突然消えた。世間の印象もそんなところだろう。その期間があまりにも短かったため、顔すら覚えていない人も多いかもしれない。いや、存在すら知らない人も少なくないだろう。

当初は籠池批判、政権擁護が過ぎたことにより、野党側の暗躍でパージされたという見方が強かったように思うが(もちろん野党側は否定するだろう)、しばらくすると逮捕取り止めと安倍内閣の介入を結びつける見方も多くなってきた(もちろん指揮を執った中村格・元警視庁刑事部長は否定している)。いずれの見方も主にネット上で見られたものであり、なんらかの形で証明されない限り、所詮は陰謀論の域を出ないものとなる。

それをさも既成事実であるかのようにさらっと書いているのが『私物化される国家』である。Twitter上では山口二郎(法政大学教授)が中村を「レイプもみ消しの主犯とされる警察官僚」と断定していたが、学者と呼ばれる人の出版物では中野晃一『私物化される国家』がはじめてではないだろうか。となると、やはりなんらかの根拠を示してほしい。

これではこの人はちょっと信用できないなと思いつつも、序章まで読み進めてみる。

そもそも安倍が岸の孫でなかったならば、このような凡庸な人物が総理大臣になることは考えられない。知力、体力、胆力いずれをとって見ても、傑出したところは何もない。この辺は、小泉純一郎や中曽根康弘、そして安倍の大叔父にあたる佐藤栄作にしても、長期政権を維持することに成功したほかの政治家と異なるところである。ましてや、もし安倍に岸の孫という「血統書」がなければ、あのように一度政権を放り出した後に、再登板する機会を与えられたわけがない。

なんて恣意的かつ短絡的な文章だろう。こういう書き出しで始められると、安倍のことが憎くてたまらないというような人しか読み進められなくなる。知力や体力や胆力というこれまたデリケートな部分に触れておきながら、それらを検証する努力は少しもする気がない。最後の一文もそりゃそうだろうけど、その「血統書」だけでは、あのような無様な放り出し方をした男の下に、あれだけの人が結集するわけがない。

学者を名乗るならもっと真摯に、せめてもう少しでも慎重に言葉を選んでほしかった。著者はこの本を自身が勤務する上智の学生に胸を張って薦めることができるのだろうか。序章まで読んだだけでも辟易してしまう。学者ではなく政治運動家の書き物と割り切って読むしかない。ただ、「肉を切らせて骨を断つ覚悟」(山口二郎)も感じられない。安倍がバカでも病弱でもヘタレでもいい。触れたからには責任をもって少しでも切り込もう。なんとも処置に困る本である。

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